クリニックの評価では、レセプト件数や再診率が高いという理由だけで価格を決めません。集計期間と定義をそろえ、診療構成、院長交代後の体制、保険請求と入金の違い、継続に必要な費用を合わせて確認します。
院長先生が準備したいのは、患者様の個別カルテを大量に渡す資料ではなく、「どの数字が何を示し、どこまで裏付けがあるか」を説明できる集計です。以下はM&A検討のための整理例であり、全国共通の評価倍率や診療の質を判定する基準ではありません。
レセプト件数・患者数・受診回数を区別する
レセプトは保険請求のために1か月の診療内容をまとめた明細書です。件数はそのまま年間の実患者数や延べ受診回数を意味しません。同じ患者様の複数月の受診や請求区分等もあるため、何を数えた値かを明記します。請求から審査・支払までの流れは社会保険診療報酬支払基金の説明を参照してください。
表は横にスクロールできます。
| 指標 | 読み取ること | 単独で判断しない理由 |
|---|---|---|
| 月次レセプト件数 | 保険診療の請求規模と月ごとの変化。 | 診療月・請求月、対象保険、再請求の扱いをそろえます。月の合計を足して年間実患者数とはしません。 |
| 診療単価 | 収入と患者数・受診回数等の関係。 | 「1件」「1人」「1回」のどれを分母にするかで変わります。保険・自費、検査・処置等の構成も確認します。 |
| 再診・再来の割合 | 定義した期間での継続受診の状況。 | 再診料の算定件数と、初診患者の後日の再来は別です。診療科や通院間隔が違う医院を単純比較しません。 |
| 保険・自由診療の構成 | 収益源、季節性、診療や集客の条件。 | 税込・税抜や前受金の計上をそろえます。自由診療の比率が高いだけで利益や承継後の継続を保証しません。 |
| 紹介元・集患経路 | 紹介、検索、広告、既存患者等への依存。 | 特定医師の関係や広告費に依存する収益は、新体制でも続く条件を別に確かめます。 |
診療単価は分母と対象収入を明記する
例えば「対象診療月の保険請求額÷同じ対象のレセプト件数」はレセプト1件当たりの請求額です。「対象期間の診療収入÷同じ範囲の延べ受診回数」とは違います。どちらを使う場合も、対象期間、保険・自費の範囲、査定や返戻の処理、計上基準を記載します。
単価が変わった月は、検査・処置の構成、診療日数、担当医、診療報酬の改定、自由診療メニュー等を確認します。総収入だけを比べると、受診回数が減った一方で高額な診療の割合が増えた変化を見落とすことがあります。必要な診療の内容は医療上の判断であり、単価を上げること自体を評価の目的にしません。
再診率は定義と観察期間をそろえる
「再診率」という名称だけでは、分母が全受診者なのか初診患者なのか、分子が同月の再診なのか一定期間内の再来なのかが分かりません。比較表には集計対象、起点日、観察期間、除外条件を添えます。直近の初診患者は十分な観察期間が経過していないこともあり、古い期間と混ぜないようにします。
急性疾患中心、慢性疾患の継続管理、健診・予防接種、専門的な検査等では受診の背景が異なります。再来の割合が高いほど優れた医院、低いほど価値がない、とは判断できません。院長交代時には、診療方針、担当医、曜日、紹介先との関係をどう維持するかも合わせて検討します。患者様の将来の通院を確約する資料にはしません。
請求・入金・会計を照合し、継続できる利益を見る
売上の発生と口座への入金は同じ月とは限りません。月次試算表、レセプト集計、査定・返戻の資料、支払通知、入金明細を対応付け、差額の理由を説明します。返戻後の再請求を二重に数えたり、未収のままの金額を入金済みとして扱ったりしないことが大切です。
季節性のある医院は複数年の同じ月を比べ、診療日数や医師の勤務日、休診、臨時の診療体制を添えます。一時的な補助金や単発の収益、特定医師だけが担っていた診療は、継続する収益と区別します。
個人開設と医療法人では、院長に関する費用が会計上同じ形で表れるとは限りません。後任医師の報酬、必要な採用・教育、機器更新、保守、電子カルテ移行、賃料等を具体的に見積もり、承継後の利益と資金繰りを検討します。帳簿上の利益に根拠のない固定倍率を掛けて成約価格とすることはできません。
評価の裏付けと、引き継ぎに必要な条件
- 診療データ:月別・診療科別の集計、定義、抽出日、対象期間。欠けている月や集計方法を変更した時期を明示します。
- 収支・債務:決算、試算表、未収・未払、借入・リース残高。予約金や未消化の自費契約等があれば、返金・履行の負担も確認します。
- 医師・スタッフ:勤務体制、給与・労働条件、院長の残留期間、採用見込み。本人の意向を確認していない事項は確約として提示しません。
- 機器・施設:所有・リース区分、修繕履歴、保守・賃貸借契約、更新見積り。承継後に必要な支出を利益とは分けて示します。
- 診療の前提:開設関係書類、保険指定、届出済み施設基準、必要な人員。現在算定している項目が新体制でも算定できるか確認します。
保険医療機関の遡及指定等は2026年9月1日から取扱いが改められています。開設者や所在地等が変わる場合は、適用類型、予定届出、施設基準と期日を所管厚生局の案内で確認し、収益計画の前提に反映します。法人形態による違いは出資持分・社員・役員の解説をご覧ください。
初期評価は集計情報を使い、個別情報の開示を管理する
初期資料は院名や患者様を識別できない集計を基本にします。少人数の診療や珍しい疾患などは、名前を消しても他の情報と組み合わせて特定される場合があるため、項目の細かさにも配慮します。院名等を開示する前には、秘密保持契約に加えて候補先ごとの事前同意を確認します。
事業承継に伴う診療録等の提供には、患者様の同意を要しない法上の取扱いもあります。ただし、交渉・調査段階での提供は、必要性や根拠を確認し、目的、閲覧者、取扱方法、漏えい対応、不成立時の返却・削除を定めます。承継後も従前の利用目的の範囲で利用します。個人情報保護委員会の医療Q&Aと通則編が根拠です。電子カルテの移行は、管理責任、閲覧権限、バックアップ、保守契約も別に確認します。
売却価格と手取り、相談費用を分けて考える
譲渡対価と手取りは分け、税金や登記、外部専門家費用等を含めて負担を確認します。仲介の料金を比較する場合は、負担者・算定基準・支払条件をそろえて譲渡企業の料金比較をご確認ください。
クリニックM&A総合センターでは、譲渡企業様から着手金・中間金・成功報酬をいただきません。費用負担を理由に相談をためらう前に、匿名段階で状況を整理し、譲渡する場合としない場合の選択肢を比較できます。
当センター0円の対象と、必要な外部費用の範囲は料金の説明をご確認ください。税金・登記・外部専門家費用等、別途必要な費用も整理します。院名を伏せた初期相談では、現時点で分かる集計と守りたい診療方針から相談できます。
公式資料の確認日:2026年9月13日。本文の指標・資料は検討準備の例です。取引価格や診療の継続を保証するものではなく、個別の会計・法務・行政手続は資料と条件に即して確認します。
